コスモス通信


任意後見のお勧め
 法定後見は、判断能力が既に失われたか又は不十分な状態になり、自分で後見人などを選ぶことが困難になった場合に利用されるものであるのに対して、任意後見は、まだ判断能力が正常である人、又は衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が利用する制度です。認知症に罹患して,いわゆるぼけてきますと,自分では,自分の財産の管理ができなくなってしまいます。また,病院等で医師の診断・治療を受けようとしても,病院等と医療契約を締結することもできないし,入院のための契約締結もできないし,施設に入ってお世話を受けようとしても,施設に入るための施設入所契約自体ができなくなってしまいます。介護保険を利用したくても,その手続をすることも大変の上,何より介護を受けるための介護サービス提供契約を締結することができない,ということになってしまします。  すなわち,年をとってくると,たとえ,いくらお金を持っていても,自分のお金であって自分で使えない,自分で自分に関することが処理できないという事態が起き得るのです。そのようなことを防ぐため,自分の判断能力が低下した場合に備えて,あらかじめ,自分がもしそういう状態になったときに,自分に代わって,財産を管理してもらったり,必要な契約締結等を代理でしてもらうこと等を,自分の信頼できる人に頼んでおけば,すべてその人(「任意後見人」と言います。)にしてもらえるわけで,あなたは安心して老後を迎えることができる,というわけです。  このように,自分が元気なうちに,自分が信頼できる人を見つけて,その人との間で,もし自分の判断能力が衰えてきた場合には,自分に代わって,自分の財産を管理したり,必要な契約締結等をして下さいとお願いしてこれを引き受けてもらう契約を,任意後見契約といいます。  以上の理由から,任意後見契約は,将来の老いの不安に備えた「老い支度」ないしは「老後の安心設計」であると言われているのです。自分は絶対にぼけない,などと思うのは,しばしば甘い幻想になります。私たちは,自己責任で,将来困らないように備えておくことが,とても大切なのです。  もとより,任意後見契約を締結しても,それを使わないまま最後まで元気で大往生ができるかもしれません。そのときは,任意後見契約書の作成費用は無駄になってしまいますが,それは微々たるものというべきでしょう。それを使わないで済むことは素晴らしいことですが,備えをしておくことは,とても大切です。 任意後見人の仕事は,一つは,本人の「財産の管理」です。自宅等の不動産や預貯金等の管理,年金の管理,税金や公共料金の支払い等々です。もう一つが,「介護や生活面の手配」です。要介護認定の申請等に関する諸手続,介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結,介護費用の支払い,医療契約の締結,入院の手続,入院費用の支払い,生活費を届けたり送金したりする行為,老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為等々です。 もともと,任意後見人は,あなた自身が,最も信頼できる人として,自分で選んだ人です(契約に際しては,真に信頼できる人かどうかをよく吟味して選ぶことがとても大切です。)。しかも,前記のように,任意後見人の仕事は,家庭裁判所によって,任意後見監督人が選任された後に初めて開始されます。したがって,家庭裁判所によって選任された任意後見監督人が,任意後見人の仕事について,それが適正になされているか否かをチェックしてくれます。また,任意後見監督人からの報告を通じて,家庭裁判所も,任意後見人の仕事を間接的にチェックする仕組みになっています。自分が死んだ後、障害を持つ子供のことが気がかりな場合、 心配な子のために,然るべく遺言をしておいてあげることが,最低限必要と思われます。  その子に契約締結能力がない場合(知的障害の程度が重い場合等)には,同じく信頼できる人を見つけて,その人との間で,子が成年の場合でも,親自ら後見人となる審判を受けた上で,同様に任意後見契約を締結しておくことが考えられますが,これを否定する考えもあり,事前に公証人と相談されるとよいと思います。また,その人と親自身との間で,親が死んだり体力が衰えたりした後の,その子の介護及び財産管理等について委任する契約をしておくことも考えられる方法のひとつです。  いずれにしても,いかに信頼できる人を見つけるかということがとても大切ですので,信頼できる受任者を今のうちに見つけておく努力をしておかれてはいかがでしょうか。


 

 

 

 

 


中小企業と事業承継・中小企業とABL

 近年は、少子化の影響からか、親族内に適当な後継者が見当たらない事例が多くなってきています。そのため、他の企業に承継させる方法がとられる例も増えつつあります。M&Aの手段としては、①株式の譲渡のほか②事業譲渡や③合併等の方法があります。①株式の譲渡による事業の承継は、売り手側の会社が自己の発行済株式を買い手側に売却して経営権を引き渡すものです。売却の対価は、株式を有している売り手側の経営者個人が得ることになります。株式譲渡は、売り手側の株主が代わるだけであり、会社はそのまま存続します。②事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を、承継先に売却する方法です。この場合、売却の対価は、経営者個人ではなく、譲渡をする会社が受け取ることになります。会社自体は事業を譲渡した後も存続しますので、譲渡をする会社自体を消滅させるためには、別途、清算等の手続を取らなくてはなりません。③合併とは、契約によって、2つ以上の会社を1つの会社にすることをいいます。 売り手と買い手が同一法人となるので、統合の効果は早く表れてきます。株式譲渡や合併の手法は、会社の有形・無形すべての資産をそっくりそのまま譲り受けることになるので、売り手の潜在債務・簿外債務などを引き継いでしますリスクがあります。 事業譲渡の場合には、資産を個別に譲渡の対象にするため、債務を自動的に引き継ぐことはありません。他方で、事業上の許認可を引き継ぐことができません。合併においては、2つの会社がいきなり同一法人となるので、お互いの会社風土、文化を慎重に考慮しておく必要があります。 平成21年には、中小企業の事業再生の円滑化を目的として「第二会社方式」による再生計画の認定制度が創設され、この認定を受けると、営業上必要な許認可等を承継できる特例、税負担の軽減措置、金融支援を活用し、事業再生に取り組むことができます。

 

 

 

中小企業とABL

昔から(ことにバブル以前まで)我が国では、企業が金融機関から融資を受ける場合の保全策は不動産担保と代表者等による保証であった。しかしながら、バブル崩壊により不動産の価格が大幅に下落し、企業は、必要とする資金の調達が困難になったり、担保不足により既に融資されている資金を引揚げられたり、という状況が散見され、企業の資金調達に支障をきたすようになった。 所有と経営が明確に分離されていない我が国の中小企業においては、企業が融資を受けるに際し、代表者を会社の借入の連帯保証人とする、いわゆる個人保証により信用補完がなされてきた。このような代表者による個人保証は、当該企業が倒産した時に連鎖的に個人破産を招き、さらに破産者は復権しない限り取締役に就任できなかったことから経営に参加することが許されないことになり、貴重な人的経営資源が失われてきた。そのような背景の下に、不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資制度として企業が保有する売掛金や在庫動産といった企業収益を生み出すとされる、いわゆる事業収益資産を活用した融資制度であるABLが次第に脚光を浴びることとなった。 ABLの借手側企業のメリットは、①資金調達手段の多様化②安定的な運転資金の確保③資金調達枠の拡大④貸手企業とのリレーション強化であり、貸手企業におけるメリットは、①融資手法の多様化②経営支援の強化③貸倒れリスクの分散・軽減があげられる。 中小企業の資金調達は、金融機関からの融資に頼らざるを得ないという現実がある。そこでABLを利用した融資は、中小企業、不動産を所有していない企業、流動資産の比率が高い企業等の資金調達に寄与するところは小さくないといえる。 また、金融機関が顧客との間で親密な関係を築くことで、顧客情報を蓄積し、この情報をもとに貸出等の金融サービスの提供を行うビジネスモデルである、リレーションシップ・バンキングを構築することができるのである。